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  原は西浜SLSC事務局で働きながら、競技会への参加はもちろん、AED(自動対外式除細動器。
停止した心臓に電気ショックを与えることで働きを取り戻す医療機器)講習、水上バイクによる救助訓練、環境保護活動、スノーボード競技のライフガード、メディア対応なども行ない、多方面に活躍の場を広げている。
その貪欲な向上心の背景にはいつも、「事故を未然に防ぐことこそライフセーバーの使命」という信念がある。

ある夏、高校生が行方不明になる水難事故があった。懸命な捜索にもかかわらず、高校生を見つけることはできなかった。翌朝の海岸に、その父親の姿があった。誰の眼にも、高校生の命はすでに絶望的な状況だった。 だが父親は、子どもがいなくなったと思われるポイントを、一日中見続けていた。
帰り際、監視所に立ち寄った父親はただ、「ありがとう」とだけ言って去っていった。

「『ありがとう』ってなんだよ!」
大切な命を守れなかった自分たちにかけられた言葉。その言葉を理解するために、事故の悲しさを想い、自分たちのやるべきことを原たちは考え続けた。
二度と悲しい事故を起こしてはならない、そのための努力なら惜しんではいけない――その夏のつらい記憶がいま、彼をさまざまな活動へと向かわせている。

海はひとの命を奪うこともある危険な場所だ。彼はそのことを、誰よりもよく知っている。
しかし、海から遠ざかることで身を守るのではなく、自分の身を守る術(すべ)を学んでほしい、そう考えている。
海とは無縁の少年だった原も大学生になって、恩師や先輩ライフセーバーたちに見守られながら海の魅力と危険を知ったのだ。そのふたつを伝えるために、ジュニア育成のプログラムに力を入れている。

「まず子どもたちに海で遊んでもらうことから始めるんです。
  海は遊び場なんだって子どもたちはすぐに感じてくれます。けど、きっと何か痛い失敗をするはずなんですよ。
  そこに学びがある。失敗から学んだ知識は身につきます。
  そして自分が学んだことを、子どもたちは友だちや年下の子に自然と伝えていく。
  そうやってみんなが、海の楽しさと安全な遊び方の両方を知ることができるんです」


大好きなライフセービングに対して、自分にできることを彼は常に考えている。
いまの自分の使命は、ライフセービングを普及させ、認知度を高めていくこと。そしてたくさんの後輩のために、ビーチに限定されない活躍の場を開拓していくことだと語る。
「そうやってライフセービングがメジャーになって、いつかオリンピック競技になったら最高ですね」
人命救助の技術、そして競技能力においてもオールラウンダーを理想とする彼は、子どもたちに託したい夢がある。
「いま西浜で学ぶ子どもたちが、オリンピックで金メダルを取ること。
そしてインタビューで、『シンスケさんにライフセービングを教えてもらいました!』って答えてもらうんです」


彼はいつまででも、海について話していたいようだった。
話を聞いていると、海とひととのかかわり方を常に考え、よくしようとしていることが伝わってくる。
「海は自分のすべてだし、中心なんです」
恩師の眼に見た輝きはいま、原の眼にも宿り、自然の厳しさを知りながら情熱と優しさに満ちた輝きを放っている。

彼の眼の輝きを、たくさんの子どもたちに受取ってもらいたい。                            ■

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取材・文:前田直昭、文・写真(一部):小田義起
Interview & text by Nao Maeda; text & photo by Yoshiki Oda
写真提供:原伸輔

 
 
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